インクルーシブ・デザインのワークショップに参加してプロダクト開発の悩みが解消しました
(2013年6月7日執筆)
インクルーシブデザインとは何か
私が「インクルーシブデザイン」という言葉を知り、興味を持ったのは、医療と暮らしをテーマに活動している塩崎望さんに話を聞いたときでした。そしてついに、彼女が開催しているワークショップに参加することができました。
「インクルーシブ・デザインとは何か」を説明する前に、「インクルーシブ」という言葉について考える必要があります。インクルーシブ (inclusive) とは「排除された」という意味の語 exclusiveの反対、つまり「排除されていない」という意味です。
「排除された」ユーザ
「排除されている」とはどういうことなのでしょうか。下の図を見るとわかりやすいです。 出典: The Philips Index: calibrating the convergence of healthcare, lifestyle and technology (2004)
これは、ある製品やサービスについて、どのくらいのユーザがどういった体験をしているかという様子を表した図です。
左から、Finds Easy = 簡単に使えるユーザがいる一方で、同じくらいの数の Frustrated = 使いにくいなあと思って使っているユーザ、そしてちょっと数は減りますが Has Difficulty = 使うのが結構大変だなあと感じているユーザがいます。そして数は少ないけど、 Excluded = 排除されている、つまりその製品やサービスをを使うことが考えられていないユーザがいるのです。
その製品を使いにくいと感じている人の意見を聞いて使いやすく改善していく、ということはよく行われますが、そもそもその製品を使えない人のことはカバーしないことが多いのではないでしょうか。
インクルーシブ・デザインは、このような「排除された」ユーザを巻き込み、製品やサービスを設計=デザインしていく手法なのです。
なぜインクルーシブ・デザインが必要なのか
それではどうして、このようなアプローチが必要なのでしょうか? すべての人をターゲットにしたら、余計なコストがかかってしまうのではないではないか、特別な人のための特別な製品を別途作ればいいのではないか、という疑問が湧いてくると思います。
「排除されているユーザ」をインクルード、取り込むことには2つの理由があります。
ひとつは、「特別な人のための特別な製品」は結局作られない、ということです。例えば指の力が入れにくい人は缶ビールのプルタブを開けられない。まあ、そういうものだと考えられています。こういったユーザはいつまでも「排除」され、置いていかれているケースが殆んどだと考えます。
もう一つは、「排除されている」ユーザが便利になると、普通の人も便利になるからです。ワークショップで例に挙げられていたのは、オクソ社の計量カップ。
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ワークショップで学んだデザインプロセス
塩崎さんのプレゼンテーションでインクルーシブ・デザインについて理解を深めたあとは、早速ワークショップです。
ここでは、目の見えない方にワークショップの「リードユーザ 」としての役割をになってもらいました。
※ ここで当初、「リードユーザ」が「排除されたユーザ」であると書きましたが、ワークショップ主催の方からのご指摘で、正確な認識ではなかったとわかりました。リードユーザとは「自身のニーズを解決することを介して高い効用を得ることが期待できるために商業的魅力度の高いイノベーションを起こす」(http://m-words.jp/w/E383AAE383BCE38389E383A6E383BCE382B6E383BCE79086E8AB96.html)ユーザのことです。
はかる
今回のテーマは「はかる」。リードユーザが「粉末のインスタント紅茶に牛乳を入れてミルクティーを作る」というタスクを行うことを観察しました。
このなかで、課題を見つけその解決策を考えました。僕を含む他の参加者の役割は「パートナー」、リードユーザを観察し、質問をします。
観察し、耳を傾ける
まず、リードユーザの行動を観察し、記録します。一つのことを一つの付箋に書きます。 この時、ガイドされたことは
- リードユーザは、一般論でなく自分の事実を語ること
- パートナーは、行動や感情をを見逃さないこと
- これらをゆっくりと丁寧に諦めず、共に一緒に言語化していくこと
でした。そうやって観察し、対話し、耳を傾けることで、
- 計量スプーンでインスタント紅茶の粉を量るとき、水平で量れないのがもどかしい、とか、
- インスタント紅茶の袋は不安定なので、倒れないよに注意を払わなくていはいけない、とか、
- 牛乳パックは重い上に口が広いので、牛乳を計量スプーンに注ぐのがちょっと怖い。ドバっと一気に行ってしまいそうだから、とか、
- ポットからお湯を注ぐのはとくに問題がなくいける(これは意外でした)、とか、
がわかりました。
先入観や思い込みを排除して、観察するのは難しいと思いました。でもそれが出来ていろいろなことが見えてくると、充足感を感じました。この感触、素直に事実を観察できる心の状態を覚えておこうと思いました。
まとめるプロセス
そのあと、観察・対話してわかった事実を書いた付箋を模造紙に貼って行きました。
ここで大切なのは、目の見えないリードユーザの課題のなかから、自分も解決した課題を抜き出していく作業です。「排除されたユーザの改題を解決することは、普通のユーザの課題を解決することにもなる」ことが具体的に理解できた瞬間でした。
解決策をプロトタイピングで考える
そして、これらの課題の中から、ひとつだけ、解決するものを選びます。どうやって解決するかを考え、実際に動くモックアップを工作し、課題が解決されているかどうかを検証するのです。
私が選んだは、
液体(牛乳)を計量スプーンに注いで計量するのはこわい
という課題でした。
私は、シャンプーのポンプ式ボトルのように、押すだけで決まった量の液体を出せるようなアタッチメントがあったらいいのでは、と考えました。ポンプがついていない牛乳パックなどに簡単にポンプ機能をつけるというアイデアです。
ワークショップではボール紙やゴム、ガムテープ等いろいろな素材が用意されていました。輪ゴムを使って、実際にポンプを押した感触も感じられるようにしました。
この工作をリードユーザの方に使ってもらって、意見を聞きました。このフィードバックを元に改良を積み重ねて行きたいところでしたが、時間の都合もあって、ここまで。
ワークショップでの「体験」の大切さ
このようなラピッドプロトタイピングのプロセスは、知識として走っていましたが、1サイクルだけでも体験することができたのは、自分の日常生活やソフトウェア開発者としての仕事に大きく役だったと思います。
いままで本を読んだりして学習し、顧客の声を聴いてプロトタイプを作るということをして来ました。でも、ワークショップでガイダンスを受けながら体験をすることでわかったこと、見えてきたことが多かったです。とくに、リードユーザが意識していなかったことを、先入観にとらわれずに共に言語化していくプロセスを体で覚えたことはとても貴重な経験でした。
街で発見、アタッチメントポンプ
それからしばらくたって、休日にウィンドウショッピングを楽しんでいたところ、見つけてしまいました。どんなペットボトルにも付けられる、ポンプ。ワンプッシュで1mlの液体を出すことができるそうです。アイデアというものは、大体もう誰かが思いついていて、実際のものが作られているものですね。
関連サイト
NPO法人 Design with All https://www.facebook.com/DesignWithAll
このワークショプを開催しているNPO法人です。
京都の町家カフェ 月の花 http://www.heartest.jp/moon/
ワークショップの会場となった町家カフェ。1階はカフェで、2階は今回のワークショップやイベントが出来るスペースになっています。
Inclusive Design Toolkit http://www.inclusivedesigntoolkit.com/
インクルーシブ・デザインをもっと知りたい方、具体的に採り入れたい方におすすめのコンテンツです。インクルーシブ・デザインの考え方がわかりやすく解説されている他、具体的なデザインプロセルに役立つツールが充実しています。
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