「あなたにとって幸せな情景は何ですか?」クリストファー・アレグザンダーに学ぶ顧客開発プロセス
(2012年10月18日執筆)
「アジャイル」という手法でアプリケーションを開発しています。まずプロトタイプを作りユーザに使ってもらって、ユーザの声を聴きながら毎日改良を重ねています。
これまで、ユーザの声を聴いて本当にユーザがほしいものを知ることはとても大切だとはわかっていたのですが、具体的にどうやってやっていいのかはよくわかっていませんでした。
でも、建築家クリストファー・アレグザンダーについてのドキュメンタリー番組を見る機会があって、その答えがわかりました。
このドキュメンタリーでは、アレグザンダーは名古屋にある千種台団地の建て替えに際して、まちづくりの設計を依頼されます。そしてまず住民との会合を持ちます。
ここで面白いと思ったのは、アレグザンダーは住民の具体的な要望を聞くのではなく「今の生活の中であなたにとって幸せな情景とは何ですか」とたずねたことです。
住民たちはそれぞれの「幸せな情景」を語りました。広場のベンチにすわり子供たちが遊んでいるのを見ているという情景、庭に植えた木が育っていく情景。
アレグザンダーは、住民へのインタビューを通して建物や広場の配置がどのように住民に影響しているかを知りたかったのです。
このようにしてアレグザンダーは住民たちの体験、「幸せな情景」を聴きそれを実現するために実際の設計に入りました。
ユーザとどう対話すれば良いのかを、このドキュメンタリーは教えてくれました。イノベーターはユーザ・顧客が本当に欲しい物を知る必要があるのです。
もう1点、僕が学んだことは、どうやってユーザにとってよいインターフェイスを作るかということです。番組の中で、アレグザンダーは団地の中の道路の幅を10メートル以内にすべきだと主張しました。道幅が広くなると、道路の「コミュニケーションの生まれる場」としての機能が失われるからです。
この点はアプリケーション開発でもとても重要なことだと思いました。「建物や広場の物理的な配置が人間関係に直接影響を与える」ように、アプリケーションのユーザインターフェイスではボタンの配置や画面遷移の設計が、同じようにユーザの行動やユーザ間のコミュニケーションに直接影響を与えるのです。
アレグザンダーはまた、「このような課題を解決するヒントは伝統的なコミュニティや自然の中にある」と言っています。
アプリケーションやサービスをローンチしたあとのコミュニティーの運営はとても大変です。僕はこの「ヒントは伝統コミュニティや自然にある」ということにとても共感しました。
同じことを、いま取り組んでいる日本酒を楽しむためのコミュニティーの運営をしながら感じていたからです。ここでの経験が、アプリケーションのユーザ体験の設計にどのように役に立ったのかは、のちほど記事にまとめたいと思います。
追記 2013-02-21
この番組のプロデューサーの方からご意見をいただきました。
アレグザンダーの住民インタビューは、「住民が望むものを、住民が自らが明確にし自覚することへの支援」という側面が強かったと思います。つまりカウンセリング的です。
私は、住民の声の奥にある「本当のニーズ」を聞きだすインタービューの方法に注目していたのですが、インタビューに答える前のプロセス、自分の中にあるものを説明しようとしたり考えたりすることで何かに気づくということが本質なのでしょう。
質問に答えるなかで考えがまとまるという経験をしたことが何度もあります。それは対話の力、聴くことの力によってもたらされたのかなあと思います。たとえば、プロダクトのアイデアについて「これは何なの?何をしたいの?」という質問をされて、しかも1分くらいで答えないといけないようなシチュエーションはよくあります。何度もいろいろな人にこのように答えていく中で、考えがまとまっていったり、アイデアが補強されたりします。