BEATセミナー「eメンタリングが支える学びの場づくり」を受講して
(2012年9月2日執筆) 現在、おもにコミュニティづくり、コミュニティをベースとしたWebサービスに取り組んでいることもあって、BEAT(東京大学大学院情報学環ベネッセ先端教育技術学講座)セミナー「安心して学べるソーシャルメディア環境」に行って来ました。
◯ 講演1「eメンタリングが支える学びの場づくり」松田岳士さん(島根大学・教育開発センター/准教授)
「メンター、メンタリング」をキーワードに、オンラインの学びの場における人的なサポートの重要性や体制作りについてのお話、教育現場での実践がベースなので、分かりやすく説得力がありました。
私がこの講演から受け取ったのは3点です。
人間関係が安心や動機付けに良い影響を与えること
オンライン学習での「不安」は人間関係が希薄なことからきていて、それをカバーするにはやはり「人的支援」であるということ。スクリーンの向こうには人がいるという感覚、プレゼンスが重要だということ。当たり前だと思うけど、それを実践の中で見出されれ、具体的にどうしたら学習者のモチベーション向上につながるかを知り、実践されていることに感銘を受けました。
コミュニケーションのしくみを知ることはオンラインコミュニティの運営にとても役に立つこと
リアルのコミュニケーションでは言語外、ノンバーバル、つまり声質や抑揚、話し手の見た目などがとても重要で、テキスト主体になりがちなオンラインでのコミュニケーションではどうやって補完するかということ。アバターを使ったりすることはもちろん、文章中の改行の入れ方など、テキストの「見た目」の工夫などの話が面白かったです。
メンタリングの技術・スキルセットを形式知化して、訓練しているのはすごい!
学習者を承認すること、自主性を引き出すことなどメンタリングの技術を体系化され、さらにそれを教えるコースを開発されています。このコースを受けてみたいと思いました。
◯ 学び合うコミュニティをつくるにはどうしたらよいか
今回のセミナーを受けて、もっと知りたいと思ったことは、学習者同士の学び、「n対nの学び」についてです。以下、私の考えを書きます。
メンターを育成して用意する方法は、スケールアウトしにくいです。だからオンランコミュニティでの学習では、学習者同士で教えあう流れにコミュニティをつくっていくことが必要です。
◯ 歴史の中からコミュニティ運営の方法を学ぶ
初心者と熟練者がいて、同じ目的をもっているようなコミュニティでは、明文化されていない規範・ルールがあって、それにそってn対nの学習が行われていると考えます。例えばジャズのセッション、酒蔵や工房など伝統的な徒弟制度のなかです。
これらは長い歴史の中で最適化されたルールが作られてきたのですが、オンライン学習コミュニティーで自然発生的なノウハウや不文律が形成されるのを待っているとビジネス的には間に合いません。
だから、まず、歴史の中で培われていたリアルコミュニティでの学びの方法を知ること。過去を知ること。それをもとにオンライン学習コミュニティーでの新しい「学び合いのしくみ」を作ることが必要だと考えます。
◯ しくみ・ルールを作ってオンライン学習コミュニティーを運営するためにはどうしたらよいか?
「こういうふうに教えあいましょう」「こういうことはしてはいけません」と明文化してユーザーに伝えるだけでは、ユーザの行動をコミュニティの規範に導くことはできません。
そのサービスを使っているうちに、自然とルールに則った行動をしている。こういう状況を作り出すためにシステムを実装するのです。言い換えれば、オンライン学習サービスのシステムが、ユーザ一人ひとりの行動、コミュニティの活動をプログラムするということです。例えば、歩道と車道の間に線を引くと、歩行者は歩道、車は車道を走るようになる、といったものから、他者に貢献する行動の蓄積が可視化され、他のユーザからの賞賛につながる、といった方法です。
そのサービスを使っているうちに、自然と規範に則った行動(それはコミュニティの目的である学習効果の向上につながります)をするようになり、コミュニティ全体ので利益、コミュニティメンバの利益が最大化されるのです。
こういったことがうまくできているサービスに、エンジニア向けのQ&Aサービス「StackOverflow」があります。「良くない質問は排除するが、内容が良いが質問の仕方がうまくないものはみんなで助け合う」など、良質なコミュニティ文化・規範が良質なコンテンツを作っているケースです。
◯ おまけ
松田先生の講演と、その後のパネルディスカッションで出てきた興味深い話題を幾つかメモしておきます。
▷ 日本人の self esteem(自尊心)について
国際比較調査で、日本人のself esteem(自尊心)とself efficacy(自己効力感)が低いという結果が出ているそうです。Self efficacy とは、Wikipediaによると、「外界の事柄に対し、自分が何らかの働きかけをすることが可能であるという感覚」です。
自尊心と自己効力感の弱さが、コミュニケーションのとり方に影響し、「グループイズム」、つまり「みんなで学習する」「他人の進捗が気になる」「平均はどのくらいか気になる」という学習スタイルにつながっています。
面白かったのは、マイクロソフトの日本法人には「Eラーニング室」があるという事例。自分の席のパソコンで一人でできるのEラーニングですが、「みんなで一緒に勉強したい」というニーズが高いため作られているそうです。日本法人以外にはこういう部屋はないとのことです。
▷「達成動機」と「親和動機」
学習の動機づけについて、達成動機(ひとりで達成する動機)と親和動機(周りの人と一緒に楽しんだりする動機)が話題に上がりました。
アメリカ人は達成動機と親和動機が負の相関、つまり、ひとりでがんばる度合いが強くなるほど、みんなと仲良く学習する動機が減るという調査結果があるそうです。
日本人の場合は正の相関にあるとのことです。例えば「メンターのために勉強する」とかウェットな人間関係がオンライン学習でも見られるのです。
オンライン学習サービスの設計とか、ローカライズする上で知っておくと助かる知識です。
▷ コミュニティーのサイズ・人とのつながりの典型
パネルディスカッションで山内先生が言及された、コミュニティのサイズについての知識。
- 150人くらいが「ムラのスケール」で成立する人数。(ダンバー数)
- 人とのつながりの典型:困ったときに助けてくれる5人、死ぬと動揺する15人、最近の動向を知っている50人、ムラ的関係の150人、知っているが親しくない弱い紐帯の500人。(via Twitter) "Grouped: How small groups of friends are the key to influence on the social web" Paul Adams. (邦訳『ウェブはグループで進化するソーシャルウェブ時代の情報伝達の鍵を握るのは「親しい仲間」』)
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